蘇鉄

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XG「PUPPET SHOW」私訳

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まえがき

❖訳した人間のスタンス・読む人に留意してほしいこと
・ 訳した人間の英語力:無(それはやめといた方がいいのでは?)
・ 直訳ではない
・ 訳した人間の解釈に基づいて、歌詞にない言葉の補足を大いに含んでいる
・ 日本語として読んだ時にくどくなっても主語述語を出す(「誰」の話なのかぼやけると解釈がブレそうだから) 例外あり(後述)
・ 「」を追記している(後述)
・ 訳した人間はこれまでXGさんの曲が好きではあったが熱心なファンというほどの探求をしてはいない(具体的に:過去MVをじっくり比較視聴するなどはしていない)

 

❖訳した人間の解釈
・ 歌詞に出てくる「ある世界の仮想」という行為はミラーリング((多く、批判・非難・指摘などの目的で)立場を反転して相手の言動を模倣する行為)である。また、ミラーリングという行為が往々にしてそうであるように、「実際にはそうはなるはずのないものである(もしも話である)」かつ「目指す世界のありようではない」と歌詞の主体も理解しているという前提に立って訳している。
・ 歌詞の主体は、ミラーリングした世界を目指そうとしているのではない。それをただ想像(Imagine)してみて、と提示している。

 

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XG「PUPPET SHOW」
 

私が自分に本当にふさわしいものを手に入れる番が来た
彼は私の真価に気づかないふりしてる

私たちは時間をかけてたくさん話したはずだけど
彼が私の話を聞いてくれたって思うこと一度も無い

聞け 私の口がどんな言葉を語り出すか
私を無理矢理引っ張り出そうとする前に

君は私という存在を理解するべき
一人の女性に対する敬意を払え こんなのお話以前のこと
君のおふざけはもう終わらせろ せいぜい道をたがえる前に

こんな世界を想像してみてほしい
今とは違う役割をやれる世界
女の子たちが権力を持って支配する世界
彼らに私たちの指がぎゅっと巻き付いたらもう後は意のままになる
「いいえ」も「嫌」も「違う」の声も上げられない世界

ようこそパペット・ショーへ
彼らがプラスチックのお人形ちゃんたちにしてきたのと同じように
ここでは私たちが彼らで遊んであげる
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で吊るしていればね

彼らのおもちゃみたいに彼らで遊ぼう
彼らには一生懸命私たちを楽しませてもらおうよ
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で捕まえてればね

この構図って気にくわない
うわもしかして私が君に恋してるんだって思ってる?
あはは、わんわん泣いてごらん
君は自分のことをうまくリードしてみせる主役だと思ってたんだ?
けど君って単に邪魔な端役

私は自分のやり方で行くから
悪かったよごめんねなんて思わないし
君をばっさり切り捨てるかも
あっそ、って言って終わりにする
ゲームみたいに彼らをコントロールするのは私
ゲームオーバーは私が言うまで無し、分かった?

私が喜ぶようにしてと望むだけで
してほしいことは君が当然やってくれるようになるよね
お人形のご主人様になれば全部イージー
私の夢全部叶えちゃおうね

こんな世界を想像してみてほしい
今とは違う役割をやれる世界
女の子たちが権力を持って支配する世界
彼らに私たちの指がぎゅっと巻き付いたらもう後は意のままになる
「いいえ」も「嫌」も「違う」の声も上げられない世界

ようこそパペット・ショーへ
彼らがプラスチックのお人形ちゃんたちにしてきたのと同じように
ここでは私たちが彼らで遊んであげる
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で吊るしていればね

彼らのおもちゃみたいに彼らで遊ぼう
彼らには一生懸命私たちを楽しませてもらおうよ
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で捕まえてればね

「従え」
「すべてを委ねろ」
「こっちの領域 君の出る幕じゃない」
Yeah Yeah

ようこそパペット・ショーへ
彼らがプラスチックのお人形ちゃんたちにしてきたのと同じように
ここでは私たちが彼らで遊んであげる
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で吊るしていればね

ようこそパペット・ショーへ
彼らがプラスチックのお人形ちゃんたちにしてきたのと同じように
ここでは私たちが彼らで遊んであげる
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で吊るしていればね

彼らのおもちゃみたいに彼らで遊ぼう
彼らには一生懸命私たちを楽しませてもらおうよ
彼らはなーんでもしてくれる
あなたが彼らを糸で捕まえてればね

 

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~以下は余談~

 

❖余談:「their」の訳出
「Where we play’em like their plastic dolls
 →私たちが彼らのプラスチック人形のように彼らをもてあそぶ場所
「Gonna play’em like their toys
 →私たちは彼らのおもちゃのように彼らをもてあそぶ

「their」がつくことで、彼らが人形(おもちゃ)を所有し支配下に置いていたことが明示されているので、これはくどくても訳に出す必要があると判断した。

人形(おもちゃ)は、ミラーリングの世界の彼らを主体がどう扱うかの比喩として使われると同時に、ミラーリングの主体の実感をほのめかす比喩でもある。

現実での主体は自らを彼らの人形(おもちゃ)のようだと感じているからこそ、仮想で立場を逆転させた時も、ただの、あるいは私の人形(おもちゃ)ではなく彼らの人形(おもちゃ)のようにとくどくても描写するのだ。鏡映しに結ばれた像が克明であるほど、その元のありさまがよく浮かび上がってくる。

  

❖余談:命令形

依頼・お願いのような、対象に対して下手に出るニュアンスを排除するために「聞いて」ではなく「聞け」、「払って」ではなく「払え」のように訳した。

 

❖余談:「puppet master」

「master」の訳で「ご主人様」を思い浮かべた時、「ご主人様」という言葉の強烈さに改めておののいてしまった。人形との関係性に対してどころか、ここでは今も人間との関係性に対して使われる言葉であるのだから。

 

❖まえがきで後述とした部分
・主語述語
・「」の追記
ここでたとえば「私」という単語で主語を訳出すると、読み手に主体の性別を意識させてしまうと思ったので明示しなかった(そもそも英語のIは発話者のジェンダーを問わない)。「」でくくった文章の中身は、従順さを求める・決定権を剥奪する・知識や能力を下に見る、の三つ。ミラーリングを通して、歌詞の主体がこれまで「言われていた」言葉を「言う」立場として出現したと解釈し、「」でくくり、引用の形式にした。

 

❖やや長い蛇足(ミラーリングについて)

・ ミラーリングは、ミラーリング前の世界が主体にとってどのようであったのかを表すための(時に不完全な)手法なのだが、受け手はしばしばミラーリング後の世界の描写にのみ意識を取られ、そこでストップしてしまう。

・ 受け手が、鏡を介して自分に向けられた像の異様さを嫌悪し、あまつさえ反感を抱く時、鏡がもとは何を映して受け手=あなたに向けてその像を結んだのかを理解するよう迫られている。受け手がミラーリング後の描写にぎょっとしたり傷ついたりしているというのなら、それは本来、ミラーリング前、立場が逆転する前も同じ反応をしているべきもののはず。

・ 立場をひっくり返して想像する前にはそんなこと当たり前のよくある話だと気にも留めずスルーしていたのに、ミラーリングという想像を通した後、立場がひっくり返って向きを変えてやっと反応して見せたり、そこに何か反論したり釘を刺してやったりしなきゃいけないように感じる人が現れてしまう。ミラーリング後の像(仮想)は、ミラーリング前のありよう(現実)を指摘するために意図をもって結ばれたものである。ミラーリングは、それを見た人の反応を炙り出し、その意識をあらわにしてしまうことがある。

 

❖MVについて(【糸】【風船】)
MVでは、【風船(のようなもの)】に繋がる【糸】を掴みながら、もう一方の手は仲間に留められた。その【風船】は破裂してしまうものなのだ。結果的に【糸】を掴む世界には行かなかった。
これを仮に【糸】=歌詞中で人形を支配するための【糸】とし、【風船】=実現することのない仮想世界、そこへ行く手段、としたら……とも思ったけど、後の場面との整合をうまくつけられそうにないのでやめます(たとえば、XGは【糸】を掌握して誰かをコントロールする世界線を選択しなかった、のような解釈ができるかどうか)。